生活習慣病
生活習慣病とは、その名の通り、生活習慣が原因で発症する疾患のことです。
偏った食事、運動不足、喫煙、過度の飲酒、過度のストレスなど、好ましくない生活習慣や環境が積み重なると発症のリスクが高くなります。
高血圧
至適血圧(収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満)を超えて血圧が高くなるほど、全心血管病、脳卒中、慢性腎臓病などの罹患リスク及び死亡リスクは高くなると報告されています。
- 診断基準
- 診察室血圧値140/90mmHg、家庭血圧値135/85mmHgが高血圧と規定されており、症状の有無にかかわらず、140/90mmHg以上の方はすべて治療対象となります。
- 治療
- 減塩、減量、節酒、禁煙、運動療法により改善しない場合に薬物療法を導入します。年齢、併存疾患の有無、併用薬などの兼ね合いがあるため、血圧管理目標値は個々の患者様により異なります。また、降圧剤は多数種類があり、目標血圧値内にコントロールするだけではなく、病態に応じた適切な薬剤の選択が必要となります。高血圧の種類として、過度に朝方に血圧が上昇する早朝高血圧や本来低下するはずの夜間に血圧が低下しなかったり、むしろ夜間に上昇する夜間高血圧があり、これらは上昇するタイミングに応じて、投薬方法を工夫する必要があります。
- 治療の目標
- 高血圧による脳や腎臓などの臓器障害の抑制、心血管病の発症・進展・再発を抑制し、可能な限り健康寿命・寿命を保つことが最終目標となります。当クリニックでは循環器専門医的見地から、常にこれらの臓器障害、心血管病の発症・進展・再発抑制を念頭においた総合的管理を心がけております。
高血圧症の患者様を管理する上で必要な心臓肥大の有無や心機能の評価は、心臓超音波検査を行うことにより、随時評価可能となっています。また、高血圧症の患者様に生じやすい心房細動の早期発見にも尽力します。
糖尿病
膵臓で生成・分泌されるインスリンというホルモンの作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群と定義されています。糖尿病には、インスリンを分泌する膵臓の細胞が破壊されてインスリン作用不足になる1型糖尿病と、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす素因を含む複数の遺伝子に、過食、運動不足、肥満、ストレスなどの環境因子や加齢などが加わり発症する2型糖尿病に分類されます。
- 診断基準
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以下のいずれかが確認された場合は「糖尿病型」と判定されます。
- 早朝空腹時血糖値126mg/dl以上
- 糖負荷後2時間値200mg/dl以上
- 随時血糖値200mg/dl以上
- HgbA1cが6.5%以上
別の日に行った検査でも糖尿病型が再確認できれば、糖尿病の診断となります。
ただし、初回、再検査の少なくとも一方で、必ず血糖値の基準を満たすことが必要で、HgbA1cのみの反復検査では糖尿病の診断には至りません。
- 症状
- 無症状のことが多いですが、のどの渇き、飲水量の増加、尿量の増加、疲れやすい、体重の減少などを認めることもあります。
- 治療
- 運動療法、食事療法を行い、良好な血糖コントロールが得られない場合に、薬物療法を導入します。経口薬はインスリン分泌非促進系、インスリン分泌促進系、インスリン製剤など、多くの種類が存在します。
どの薬剤を使用するかは、インスリン分泌状態やインスリン抵抗性、合併症の有無により使い分けが必要となります。HgbA1c7.5%未満であれば単剤投与で治療を行うことが多いですが、HgbA1c7.5%以上になると2剤、3剤の併用投与が必要となることが多くなります。
心血管疾患の既往や高リスク状態、及び腎機能障害の合併がある場合は、心血管の保護効果や腎保護作用が証明されているSGLT2阻害薬(排泄調節系)やGLP1受動体作動薬(インスリン分泌促進系)の積極的使用が必要となります。糖尿病患者さんにおける心血管合併症の中で最も発症頻度が高いものが心不全であり、SGLT2阻害薬は、他の糖尿病治療薬にはない圧倒的な心不全発症抑制効果や心不全入院回避効果が証明されているため、心不全発症リスクの高い糖尿病患者さんは、SGLT2阻害薬の良い適応となります。そのため、糖尿病患者さんを管理する場合、心血管疾患の既往など詳細な病歴把握に加えて、ナトリウム利尿ペプチドという心臓ホルモンの測定や心エコー検査を駆使し、正確な心不全リスク評価を行うことが肝要となります。
多剤併用を行っても血糖コントロールが不十分な場合は、インスリンの導入となりますが、インスリンも作用時間により多数の種類が存在するため、個々の患者さんの病態に応じたインスリン製剤の選択が必要となります。内服薬を多剤併用もしくはインスリンを使用しても血糖コントロールが不良である場合は、すみやかに糖尿病専門施設に紹介させていただきます。
- 治療の目標
- 良好な血糖コントロールを維持することにより、糖尿病の合併症である細小血管合併症(糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害)及び動脈硬化性疾患(狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患)の発症・進展を阻止し、可能な限り健康寿命・寿命を保つことを最終目標とします。
脂質異常症(高脂血症)
脂質には、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪の3つがあり、LDLコレステロールは悪玉コレステロール、HDLコレステロールは善玉コレステロールと呼ばれています。
- 診断基準
- LDLコレステロール140mg/dl以上、HDLコレステロールは40mg/dl未満、中性脂肪150mg/dlのいずれかが認められれば脂質異常症と診断されます。LDL180mg/dl以上の方は、家族性高コレステロール血症の精査が必要になります。
詳しくは家族性高コレステロール血症の説明文をご覧ください。
- 症状
- 多くの場合、症状はありませんが、LDLコレステロール上昇、HDLコレステロール低下、中性脂肪上昇のいずれも冠動脈疾患や脳梗塞などの動脈硬化疾患が発症しやすくなります。
- 検査
- 当院では動脈硬化疾患の精査として、積極的に頸動脈エコーやABI検査を行い、その結果を脂質異常症の管理に生かすよう心がけています。また、LDLコレステロール180mg/dl以上の場合は、家族性高コレステロール血症の精査として、アキレス腱エコーを積極的に行うようにしています。
- 治療
- 食事療法、薬物療法による生活習慣の改善をまず行い、それでもコントロールが不十分な場合に、薬物療法を導入します。 脂質管理目標値は、冠動脈疾患の既往がない場合の一次予防、冠動脈疾患の既往のある場合の二次予防によって異なり、二次予防はLDLコレステロール100mg/dl未満と一次予防と比較してさらに厳しい管理目標が設定されています。一次予防の場合、患者様の動脈硬化リスク因子(年齢、喫煙、併存疾患:糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患)の有無により、LDLコレステロールの管理目標値は3段階に分かれています。一方で、HDLと中性脂肪は、一次予防、二次予防、動脈硬化リスク因子によらず、管理目標値は、HDL40mg/dl以上、中性脂肪150mg/dl未満とされています。個々の患者様により、動脈硬化リスク因子やそのリスク因子に基づいた脂質管理目標値は異なるため、病態に応じた薬物の選択・管理が必要となります。
- 治療の目標
- 良好な脂質管理を行うことにより、合併症である動脈硬化性疾患、特に狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の発症・進展を阻止し、可能な限り健康寿命・寿命を保つことを最終目標とします。
- ▼ 家族性高コレステロール血症について
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- 家族性高コレステロール血症
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家族性高コレステロール血症は、遺伝性代謝疾患のなかで最も多い病気で、300人に 1人程度の罹患率とされています。生活習慣と関係なく、生後より血管内が高いLDLコレステロールにさらされ、蓄積されるため動脈硬化の進行が早く、早発かつ重篤な冠動脈疾患を発症しやすくなります。このような疾患特徴を有しているにもかかわらず、診断がついていない潜在患者様が多いことが問題となっています。
- 診断基準
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- 1. 未治療時のLDLコレステロールが180mg/dl以上
- 2. 第1度近親者(父母、兄弟、子供)の中に家族性高コレステロール血症患者、または、早発性冠動脈疾患(男性55歳未満、女性65歳未満)患者が存在する
- 3. アキレス腱肥厚、あるいは手背・肘・膝などの腱黄色腫、皮膚の黄色腫
以上のうち2項目が該当した場合に家族性高コレステロール血症と診断します。
- 検査
- 当院ではLDLコレステロールが180mg/dl以上の患者様には積極的にアキレス腱エコーを行っています。アキレス腱エコーは、靴と靴下を脱いでいただき、アキレス腱にエコーゼリーをつけて、エコーを当てるだけの簡単な検査で、特に苦痛を伴うことはありません。
アキレス腱エコーで、男性60mm以上、女性5.5mm以上の場合、アキレス腱肥厚と診断します。
その他、頸動脈エコー検査では、血管壁の厚さを測ることにより動脈硬化の重症度を判定します。
心臓の血管が細くなっている可能性がある場合には、運動負荷心筋シンチグラフィー、心臓のCT、冠動脈造影検査が可能な施設に紹介させていただきます。 - 治療
- 動脈硬化疾患のリスクが高いため、LDLコレステロールの目標値は100mg/dlと低めに設定されています。生活習慣の改善だけで、目標値に到達することは皆無であるため、薬物療法が必要となります。目標値に到達しない場合は、皮下注射が必要な場合もあります。
高尿酸血症(痛風)
尿酸とは、遺伝子(DNA)を作っている核酸(かくさん)という物質のなかに含まれるプリン体の分解産物のことです。プリン体は食事から摂取されるもの以外に、体の新陳代謝によっても産生されます。尿酸はその約80%が、腎臓を通して尿に溶けた状態で排泄されますが、この排泄量が少なかったり、尿酸が産生されすぎると血液中に尿酸が増えてきます。「高尿酸血症」とはその名のとおり血液中の尿酸が正常値を超えて高くなった状態です。高尿酸血症の状態を放置した場合、痛風発作だけでなく、尿路結石、腎障害、動脈硬化が生じます。
- 診断基準
- 尿酸値が7.0㎎/dlを超えると高尿酸血症と定義されます。
- 症状
- 多くの場合、症状はありませんが、高尿酸血症の状態が一定期間継続すると、尿酸は尿酸塩という結晶の形になって、関節や腎臓などに析出することがあります。この尿酸塩が関節に沈着することにより急性の関節炎を起こす病気が「痛風」であり、足の親指の付け根などの関節が赤く腫れて痛むことがあります。
- 治療
- 生活習慣を改善しても尿酸値が正常化しない場合に内服治療を行います。
痛風発作が起こった時は、まずは腫れている関節を安静にして冷却し、痛み止めで症状を改善させ炎症を抑えます。禁酒も必要となります。
痛風発作を起した人は、そうでない人と比べ、心血管障害(狭心症・心筋梗塞、脳出血・脳梗塞)の発生リスクが高いことが報告されており、より厳格な尿酸値管理が必要となります。
- 治療の目標
- 尿酸値の正常化や痛風発作抑制だけでなく、尿路結石、腎障害、動脈硬化などの発症・進展を抑制し、可能な限り健康寿命・寿命を保つことを最終目標とします。